私が小学生の時、無理を言って手乗りセキセイインコを買ってもらった。
ペットショップで小さな雛を穴の空いた箱に入れてもらい、傾けないように細心の注意を払って家まで帰った。家に着くと家にあった箱に新聞紙をちぎって入れ、そこを新しい寝床とした。雛のセキセイインコは十分に羽はなく、箱の中で小さな体を震わせていた。
私はペットショップの人に聞いたとおりに割り箸の先を削り、一緒に買った粟をお湯で柔らかくして、その箸の上にのせて嘴の先へ当てた。
雛はそれに気づいて大きな鳴き声を上げて嘴を開けた。その嘴の奥に指で粟を滑らせながら押し込んだ。雛はそれを一気に飲み込む。飲み込んでいる時は鳴き声が止まる。粟が胃袋におさまると、また鳴き始める。
それを何度か繰り返していると雛のお腹が膨らんでくる。十分に羽が生えていないので、食べた粟が皮膚を通して見える。それを気持ち悪いとも感じることもなく、お腹が太る幸せを感じながら与えた。
やがて雛はお腹が満杯になると目を閉じてうっつらと寝始めた。それで私の仕事は終わり。箱を静かな所へ移動させる。
それから数時間後もすると箱から鳴き声が始まる。私はその鳴き声で粟をお湯で柔らかくして与えた。それを繰り返した。徐々に箱にいた雛は羽も生えて大きくなった。少しすると餌も自分で食べることができる。ジャンプして箱から出ることもできる。やがて飛ぶようになってきたので鳥かごを買ってもらった。私が家にいる時は鳥かごから出して一緒に遊んだ。
どんな事をして遊んだか。今ではハッキリとは思い出せないが、呼ぶと飛んで来て私の肩に留まる。暫くすると他に飛ぶので、また呼んでやると戻って来る。不思議とフンは私の肩に落とさなかった。必ず他へ飛んでからフンを落とす。私は輪くぐりなど、いくつか芸を教えた。次々と芸をマスターして私に披露した。
気がつくと家族の一員になっていた。そして、すっかり飛ぶようになっていたのだが、風切羽を切るのが嫌でそのままにしていた。だって、風切羽を切ることで飛べなくなるのが可哀相だった。
ある日、窓を開けたまま外出をしてしまった。そのセキセイインコは自分でかごを開けることができる。私は窓を開けて出たことを思い出し慌てて家に戻った。でも、そこには姿はなかった。カーテンが風で揺れているだけだった。
私は泣いた。一晩中泣いた。親が男の子だから泣くなと言っても泣いた。いくら泣いても叫んでも答えてはくれなかった。
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