2010年2月10日水曜日

泥の畦道がアスファルトへ

昨年の今頃、私一人でひっそりとコハクチョウを撮影していた。今年はその場所にタンチョウが舞い降りてきた。36年ぶりの飛来に興味のある方々は舞い上がる。やはり、ラムサール条約湿地で指定された事だけはある。

私はタンチョウが来なくても、今年もこの場所でコハクチョウを撮影する予定だった。さすがにすぐ横にタンチョウがいると、コハクチョウよりもタンチョウを撮影してしまう。私もタンチョウで舞い上がる組だ(笑)

先日の休みの日、午後から3回目のタンチョウの撮影に出かけた。

その前の休日は人の集まりの多さにタンチョウの撮影を諦めた。今回は行ってみると、そんなに人が集まっていない。ならば撮影するぞと決めて車ごと泥の畦道に入った。そして泥の畦道からタンチョウの一番近い所へ車を停めた。窓を開けてタンチョウにカメラの望遠レンズを向ける。きっと車は泥だらけである。

タンチョウまで遠い。仕方がない。暫く待っていればタンチョウの方から来るかも知れない。と、車の中で待つことにした。タンチョウは車には警戒心が薄く、人間には警戒心があるから、車から撮影するのが一番良い。私の撮影経験では、そのうちに食べる物を探してタンチョウの方から寄って来るからだ。この時、焦って車から降りてしまうと用心してタンチョウは離れてしまうし、離れなくてもタンチョウからは近づいて来ることはなくなる。

5分ぐらい待っていると、タンチョウが近づくよりも先に、私と同じ様にカメラをぶら下げた人が何人も歩いて集まって来た。彼らの車は離れた所へ停めている。気がついたら6人ぐらいだろうか。私の車を囲むようにしてタンチョウが翼を広げるのを待っていた。

これではタンチョウの方から近づくことはない。

この状況に撮影を中断して帰ろうかとも思ったが、泥の畦道の出入り口には車が何台か停まっているので車を泥の畦道から出すことはできない。帰るのは諦めた方が良さそうだ。腹をくくって夕方までタンチョウを撮影することにした。

ここで誤解をしてもらいたくはない点がある。野鳥は自由だ。まして、田は他人の田だ。だから、撮影を独占する権利はない。撮影できないからと言って、私は怒ることはしない。それぞれの撮影スタイルもあるだろうし、それを尊重したい。犬の散歩も気にならない。全ての環境を含めて撮影に望みたい。全てが要素と考えたい。

そのうちに夕方になった。暗くなると光量不足のために撮影ができない。私の車を取り囲んでいた人たちは諦めて帰り始めた。そして私の正面に車が一台停まっているだけになった。その車も中からカメラのレンズを向けている。どうやら考えが同じらしい。

さて、これから私の本番。暗くなるまでの僅かな時間で、タンチョウの楽しい写真が撮影できるだろうか。そう思っていると、タンチョウが私の方に歩き出した。

グングン近づいて来る。これでは今のレンズでは近づき過ぎだ。翼を広げると画面からはみ出てしまいそう。手早く望遠レンズ交換をして撮影しようと思った矢先、翼を広げ始めた。私は望遠レンズ交換のために引っ込めていたカメラを慌てて向け直して、そのまま望遠レンズで撮影をした。

パシャパシャパシャ。何枚かシャッターを切った。見事に頭と足がはみ出ている。

次にタンチョウが舗装中の畦道に飛び上がった。ここも距離が近い。頭と足がはみ出ないようにカメラを縦にした。そうすると、また翼を広げるではないか。今度は翼がはみ出ることになる。

レンズ交換ができれば全身を撮影できるのに。しかもレンズも明るくなるので、夕方でも無理なく撮影できる。と思いながらシャッターを切り続けた。

タンチョウは舗装中の畦道の上で翼を広げて少し歩いて田に戻った。私は満足な写真は撮れていないだろう。と、残念に思った。

家に帰ってパソコンで恐る恐る写真を見てみると、そこにはタンチョウが舗装中の畦道を確認するために歩いている感じの写真があった。そう、数日前は泥の畦道だったが、今はアスファルトで舗装するためにローラー車で平らにしてある。泥の畦道だった道の脇には木の枠が打たれ、後はアスファルトを流し込むだけだ。

その変わってしまった畦道にタンチョウが歩きながら、何が変わったかを確認しているみたいに感じた。これは猫と同じ様な行動。猫は変わったことがあると歩き回って確認をする。

私は、その時のタンチョウは少し寂しく写っているように思えた。

タンチョウの足が泥の畦道ではなく、舗装中の白い道の上に立っていたからか。その白くなった道に嘴を近づけて食べ物があるかを確認していたからだろうか。その後に私に背を向けてゆっくりと歩き出した姿が寂しく感じたからだろうか。それとも翼を広げた時に見えた白と黒の翼が、置かれた蓋の開いた赤いオイル缶と対比したからだろうか。

何とも私の主観がいっぱい入っていると思えるが、畦道は泥のままが良かったのにと訴えている様にも思えた。

安来の白鳥ロード周辺も大規模な整備が行われている。田は重機で掘られて、道はアスファルトで舗装が始まっている。しかも大型車が通れるぐらいに大きな道だ。目的は何かは分からないが、人間には住みやすい環境になりそうだ。でも、渡り鳥たちには来年になってみないと、それは良いことなのかが分からないと思えた。

撮影:Canon EOS 50D EF300mm F2.8L USM,EXTENDER EF2X

0 件のコメント:

コメントを投稿