多くのイノベーションを起こしながら、こんなに業界を越えて多くの人に知られた人はいただろうか。
僭越ながら私は「ぶれない強い意志」の持ち主のイメージが強い。だから流行に流されず、もの作りにおいてイメージを具現化する際に様々な妥協を認めなかった。その結果がMacやiPod、iPhone、そしてiPadに結びついたと思える。
昔、彼がSonyに憧れがあると何かの本で読んだ時、なぜか日本人である自分が誇らしげに思えた。しかし、今では日本の家電産業はそのポジションから抜け切らなく、逆に日本人の方が憧れを抱いている人が多いのではないだろういか。
日本のもの作り。ものを作っているのに、作るところを人任せにしている。例えばコンピュータ。主要部品は台湾からの輸入だ。組み立ては中国だったりする。こう書くとApple社も同じじゃないかと言われるが、実は重要なところが違う。
Windowsを使うためのコンピュータは世界レベルで規格が標準化されている。これはMicrosoft社が成しえたことだ。Windowsを使うためにはその規格に沿って作らないといけない。だから日本メーカーが頑張っても他と同じようなコンピュータになる。製品の差別化ができないし、台湾では共通の部品が安く作っている。ならば台湾から部品を買ってきて組み立てようと。差別化はコンピュータの筐体デザインだけとなった。
その後、広くコンピュータが普及すると価格競争になる。筐体のデザインにこだわっていると一部の人には受けるが、製品の価格が高くなり多くは売れなくなる。価格競争で多く売れないのは致命的だ。だから撤退する日本メーカー出てくる。しかし、パナソニックは壊れにくい筐体デザインで、価格は高いけれど支持を得て生き残っている。
Apple社は基本ソフトのWindowsを使うためのコンピュータではない。AppleのMac OSで動くコンピュータだ。だから、単に標準化された部品を組み合わせるだけでは作れない。オリジナルな部分を企画開発しなければならない。ここがWindows系のハードメーカーと違う点だ。
そんなAppleだから浮き沈みがあった。だから浮かぶためにソフト面ではMac OSをUnix系として、Windowsのアプリは動かないけれどUnixなどからのアプリを移植しやすくしたり、ハードも多くをWindowsと同じにすることでハードコストを下げることができた。また、そのことでWindowsも動かすことができるようになった。
今ではコンピュータもスピードが速くなり、メモリも多く積むことができるので、Mac一台の中でMac OSもWindowsも両方動くようになった。両方の基本ソフトが動くのはMacの特徴ともなった。
そしてiPhoneやiPadも同じ考え方で展開を進めている。
ビジネスモデルを考える時、市場が形成される時は企業のオリジナルから始まる。市場が成長していくと製品やサービスが共通化されて、企業間での差別化が図れなくなり企業の淘汰が始まる。そして市場が落ち着く頃にはかなりの企業が抜けてしまう。
この誰もが知っている流れの中で、企業の姿勢を変えずに行ってきたApple社。だから市場が形成される時期は強く、成長していく段階では弱くなり、市場が落ち着いた時には強くなった。よくぞ姿勢を変えることなく貫いたものだ。
これからiPhoneやiPadの市場はGoogleが規格を標準化して成長していく段階だ。Apple社には辛い時代に入っていくが、強力な姿勢で貫いてもらいたいと思う。
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松江城 |
撮影:iPhone4